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「事実無根の捏造記事」で文藝春秋に名誉毀損訴訟で勝った私からの警告《前編》【浅野健一】

『ありがとう、松ちゃん』より #前編

■疑惑の松本氏らは実名で、被害者は仮名で告発

 私は松本氏に関する文春の7本の記事を再読した。記事の作り方が、私に関する捏造記事と共通している点が多い。見出しや引用部分の言葉は激しいが、結局、松本氏の交友関係の倫理を問う記述が多い。

 私は漫才や落語は好きな方だが、実は松本氏に特別の関心はなかった。大阪万博のアンバサダーを務めるなど“第二自民党”の日本維新の会と近しい関係にあることにも疑問を持っている。

 松本氏が、文春記事を完全否定しながら、裁判に専念するため、休業を宣言したのもよく分からない。他に方法はなかったのだろうか。

 ただ、他の芸人や有名人の不祥事とされる事案も含め、メディア報道によって社会的に抹殺されることに問題があると思う。いくら松本氏が有名人であるとはいえ、疑惑があるからと社会的制裁を加えていいわけではない。松本氏の休業は自らの意思によるものであるが、文春報道があっての苦しい選択だったと思う。

 文春の第二報以降の記事は、第一報記事を真実と断じた上で、松本氏の行状をあれこれ取り上げて、吉本興業を含む仮名の「関係者」たちの証言を並べている。30年前の出来事も取り上げられた。

 文春記事は、松本氏の後輩芸人が“女衒”になって「SEX上納システム」を用意していたと書いているが、反論も出てきた。AV女優の霜月るな氏が文春記事を「嘘だらけ」「デタラメな記事」と批判したことが波紋を広げている。霜月氏は3月3日、自身のX(旧ツイッター)で「私は大阪のリッツカールトンでの飲み会に参加していました。記事に書いてあったギャルっぽいAV女優は私の事です」と名乗り出た。その上で「まず記事に、たむけんさんがグラビアアイドルを飲み会に誘ったと書いてありますがあれは違います」「そして携帯を没収なんて言われてもないし携帯の利用を禁止という発言なんてなかったです」「たむけんタイムなんてありませんでした」などと斬り捨てた。霜月氏は同月5日、自身のXを更新し、「なんなら、裁判で証人として出ましょうか?」と述べた。霜月氏の出廷は松本氏側に力を与えるだろう。

▲霜月るな氏、村西とおる氏 写真:編集部

「週刊女性PRIME」(7月8日)によると、2019年10月、松本氏の後輩芸人から誘いを受けて、知人女性(文春記事の第2弾でD子さん)と共に松本氏の飲み会に参加したY子さんは、D子さんが“後輩芸人を使った性接待”と書かれたことに疑問を持っていると述べた。Y子さんは「松本さんやほかの方々の言動に性的なものはまったく感じなかった」と証言した。

 文春記事では、D子さんは、「私の周囲でも大勢の子が松本さんの部屋飲みに誘われ、最後には性行為をするように仕向けられていました」と証言している。しかし、Y子さんは、D子さんが「後輩芸人を使った性接待」と書かれたことにはなかったと断じ、「私は“上納”されてない」と主張している。文春記事の根拠がここでも崩れつつある。

 文藝春秋の新谷学総局長は3月2日に公開されたYouTubeチャンネル「ReHacQーリハックー」の動画企画「あつまれ!経済の森」に出演し、「あくまで密室の中でのことで、松本さんサイドは客観的な証拠がない、無理やり合意もないままにそういう行為に及んだということを裏付ける客観的な証拠がないとおっしゃってますけども、被害女性いわく、携帯も取り上げられているような状況の中で、客観的な証拠を残すのは不可能だと思う。そこに合意があったのかなかったのかは、松本さんの証言と被害に遭われた方の証言しかないので、『やったやらない』的な双方の証言のどちらに説得力があるかを、裁判所が判断するという裁判になるのかなと」と語った。

 新谷氏は元文春編集長で、記事を裏付ける客観的証拠はないと言い切ったのは驚きだった。

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浅野 健一

あさの けんいち

ジャーナリスト

1948年香川県高松市生まれ。慶大経卒、1972年に共同通信社入社。
1984年に『犯罪報道の犯罪』を出版。1994年から2014年まで、同志社大学大学院メディア学専攻教授。『客観報道』『安倍政権・言論弾圧の犯罪』など著書多数。2020年、下咽頭がんで声帯を失うが、AI音声などを使って講演を再開。「紙の爆弾」「進歩と改革」に寄稿、朝鮮新報、救援、たん
ぽぽ舎メルマガで連載中。

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